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歯肉炎と歯周病は同じと聞きましたが、なぜ名前が違うのでしょうか?
2017年06月26日
江東区門前仲町の歯医者さん、原澤歯科です。
今回のテーマは「歯肉炎と歯周病、それぞれの名前の違いについて」です。
歯肉炎と歯周病、これらは同じということをご存じでしょうか?
つまり、もしあなたが歯肉炎と診断された場合、それは歯周病になっていることを意味するのです。
とは言え、同じ症状なのに名前が違うことに違和感を覚える人も多いでしょう。
そこで、ここでは歯肉炎と歯周病…同じ症状なのになぜこうして名前が違うのかについて説明します。
また、この説明をするにあたって歯周病の症状もポイントになってくるため、
改めて歯周病の症状についても触れ、歯周病全体をテーマにしながらお話ししていきます。
目次
1. 歯周病は3段階に分けられる
歯周病の症状は一定ではなく、進行するにつれて症状は悪化していきます。
このため、歯周病の症状は初期段階、中期段階、重度段階の3つの段階に分けられています。
そして、以前はこの3つの段階ごとで病名も分けられていたのです。
1-1. 初期段階=歯肉炎
初期段階の歯周病では歯肉が腫れて変色します。
お口の中に違和感はないため、この時点で自分が歯周病だと気付く人は少ないでしょう。
最も、自覚症状が一切ないわけではありません。
歯肉の腫れや変色は見て確認できますし、
歯肉が炎症を起こしているため歯磨きや食事の際に歯肉から出血しやすくなります。
また、お口の中に歯周病菌があることで口臭がするようになるのです。
さて、この初期段階の歯周病を歯肉炎と呼ぶこともあります。
つまり歯肉炎は歯周病の初期段階とイコールであり、つまり歯肉炎と歯周病は同じなのです。
ちなみに、以下で説明する中期段階や重度段階にも別の呼び方が存在します。
1-2. 中期段階=歯周炎
歯周病が進行すると顎の骨…正確には歯槽骨が溶かされていき、中期段階になるとその症状が露になります。
歯槽骨は歯を支える役割を持っているため、歯にとって歯槽骨は言わば支えであって土台です。
この歯槽骨が溶かされることで歯は支えを失い、不安定になってグラつくようになるのです。
このため、指で触って時に歯がグラグラするようになりますし、食事で噛む際にもそれを感じます。
また、歯周病の進行によって歯肉が退縮して歯の根元が露出するため、一見歯が長くなったように見えます。
さらに露出した歯の根元は刺激に敏感なので、冷たいものや熱いものの飲食でしみるようになるのです。
そして、この中期段階の歯周病を歯周炎と呼びます。
歯肉炎と歯周炎は名前が似ているせいもあり、どちらが深刻な症状が分かりづらいと思います。
しかし初期段階の歯周病が歯肉炎、中期段階の歯周病が歯周炎であることから、深刻なのは歯周炎になります。
1-3. 重度段階=歯槽膿漏
重度段階になると歯槽骨はほとんど溶かされ、歯は常にグラついた状態になります。
こうなるといつ歯が抜け落ちてもおかしくない状態であり、治療しても歯を残せない可能性があります。
治療も大掛かりなものになり、歯周ポケット内を清掃するために歯肉を切開する手術も必要です。
治療期間も1年以上掛かりますし、抜歯が必要となった際は歯を失うことになってしまいます。
ちなみに、抜歯後は入れ歯やインプラントやブリッジで対処することになります。
そして、この重度段階の歯周病を歯槽膿漏と呼ぶのです。
歯肉炎や歯周炎に比べ、歯槽膿漏は聞いたことがあるという人も多いでしょう。
また、歯槽膿漏は高齢の人がなるイメージがあるでしょうが、
若くても歯周病になることから、若い人でも重度の歯周病…つまり歯槽膿漏になる可能性はあるのです。
…このように初期段階の歯周病、中期段階の歯周病、重度段階の歯周病を、
それぞれ歯肉炎、歯周炎、歯槽膿漏とも呼びます。
今回のテーマである歯肉炎は初期段階の歯周病であることから、「歯肉炎=歯周病」と言えるのです。
2. 同じ病気なのに名前が違うのはなぜか
歯肉炎も歯周炎も歯槽膿漏も歯周病と同じです。
ではなぜ同じ病気なのにこのように名前が違っているのでしょうか。
その理由を以下で説明していきますが、結論から言って特に大きな理由ではありません。
と言うのも、元々歯周病は段階ごとで別の病名で呼ばれていたのです。
歯肉の腫れや変色を歯肉炎、それが悪化した状態を歯周炎、
歯槽骨が大幅に溶かされてより重症化した状態を歯槽膿漏と呼んでいたのです。
しかし、近年ではそれら全てをまとめて歯周病と呼ぶようになりました。
つまり、歯肉炎や歯周炎や歯槽膿漏というのは昔の表現です。
今でもこれらの表現を使う歯科医はいますが、一般的には歯周病と呼んでいます。
それでも敢えて昔の表現を使う理由は2つです。1つはその歯科医の歯周病の治療歴が長く、
歯肉炎や歯周炎や歯槽膿漏と昔の表現で呼ぶクセがついている可能性です。もう1つの理由は、
敢えてこれらの表現を使って患者さんに危機感を持ってもらおうという狙いです。
特に歯槽膿漏なんかは「膿みが漏れる」という漢字にインパクトがありますからね。
痛みがないことで歯周病を軽視する人が多いのは事実ですし、
それゆえ危機感を持ってもらうために敢えて昔の表現を使う歯科医もいるのです。
3. 歯周病の低年齢化の問題
歯肉炎が歯周病と同じであることから実感できるのが、歯周病の低年齢化です。
小学校の歯科検診で歯肉炎と診断された経験がある人もいるでしょうし、
歯肉炎と歯周病がイコールであることから、小学生でも歯周病になることが分かります。
最も、さすがに小学生が歯周病で歯を失うことはないものの、歯肉炎になる子供は多いのです。
これはデータでも証明されており、厚生労働省の調査報告によると5歳~9歳のおよそ4割、
10歳~14歳のおよそ半分が歯肉炎…つまり歯周病の初期段階であると報告されているのです。
また、歯周病が深刻なのは子供だけではなく成人においても同じです。
日本人の成人のおよそ7割が歯周病だと言われていますし、
日本人が歯を失う理由として最も高いのが歯周病なのです。
4. 歯周病の予防方法
歯肉炎や歯周炎や歯槽膿漏、敢えて歯周病と呼ばずにこれらの昔の呼び方をする歯科医は、
患者さんに危機感を持ってもらうことを目的にしている場合があります。
また、上記で説明したとおり歯周病の低年齢化も問題になっており、歯を失う要因も歯周病がトップです。
これだけ深刻な歯周病が軽視されがちなのは、虫歯のような痛みがないことと、
歯周病は高齢の人がなるというイメージが根付いているからです。
しかし、今回のテーマで歯周病に危機感と予防意識を持ったという人も多いでしょう。
そこで、今回のテーマのまとめとして歯周病の予防方法を説明します。
歯磨きの精度を高める
歯周病予防の基本は歯磨きですが、ただ磨くだけでは予防効果はなく、精度の高い歯磨きが必要です。
そこでおすすめなのが、デンタルフロスや歯間ブラシの使用です。
これらを使用すればプラークの除去率が2割以上高まりますし、
特に歯と歯肉の間を磨ける歯間ブラシは歯周病予防に最適です。
生活習慣を見直す
歯周病は歯周病菌…つまり細菌に感染することで起こる病気です。
そして、細菌に感染するリスクは身体の免疫力次第で大きく変動します。
生活習慣を見直して疲労やストレスを軽減させ、身体の免疫力低下を防いでください。
また、喫煙は歯周病になるリスクを高めるだけでなく、歯周病が重症化しやすくなるため厳禁です。
定期検診を受ける
歯科医院の定期検診ではお口のクリーニングを行い、歯周病の要因となるプラークや歯石を除去できます。
さらにブラッシング指導を受けることができるため、歯磨きの精度を高めることができるのです。
また、お口の状態をチェックすることで気付きにくい初期段階の歯周病…いわゆる歯肉炎も発見できます。
初期段階で発見すれば治療も簡単にできますし、例え歯周病になっても歯を失うような事態は防げます。
家族全員で予防する
歯周病の母子感染という言葉が示すとおり、歯周病は人から人にうつります。
歯周病がそのままうつるわけではないものの、唾液を介して人から人へ歯周病菌がうつるのです。
唾液を介す行為をいえば食器の共用や歯ブラシの接触が考えられますし、
これらの点から家族の中でうつる、うつされるケースが最も多く、家族全員での予防が必要です。
まとめ
いかがでしたか?
最後に、歯肉炎と歯周病、それぞれの名前の違いについてまとめます。
1. 歯周病は3段階に分けられる :歯周病は進行に沿って3つの段階に分けられている
初期段階=歯肉炎 :歯肉が腫れて変色する初期段階のことを歯肉炎とも呼ぶ
中期段階=歯周炎 :歯槽骨が溶かされる中期段階のことを歯周炎とも呼ぶ
重度段階=歯槽膿漏 :さらに進行して重症化して重度段階の歯周病を歯槽膿漏と呼ぶ
2. 同じ病気なのに名前が違うのはなぜか :昔は段階ごとで病名が分けられていたため
3. 歯周病の低年齢化の問題 :5歳~9歳の約4割、10歳~14歳の約半分が歯肉炎
4. 歯周病の予防方法 :歯周病の低年齢化の件も含め、もっと歯周病に危機感と予防意識を持つべき
歯磨きの精度を高める :デンタルフロスや歯間ブラシを使用する。歯周病予防は歯間ブラシがおすすめ
生活習慣を見直す :歯周病菌に感染しない免疫力を保つため、疲労やストレスを軽減させる
定期検診を受ける :予防効果が高いだけでなく、初期段階の歯周病を発見できるので重症化しなくなる
家族全員で予防する :唾液を介して歯周病菌はうつるため、家族全員で予防してうつるのを防ぐべき
これらのことから、歯肉炎と歯周病、それぞれの名前の違いが分かります。
歯肉炎と歯周病はイコールであり、名前の呼び方が違うことに深い意味はありません。
昔は歯肉炎、歯周炎、歯槽膿漏と呼ばれていたのが、今は全てひっくるめて歯周病と呼んでいるだけです。
これは単に1つの知識として知っておけばいいでしょう。
それよりも今回の説明をきっかけに、歯周病にもっと高い予防意識と危機感を持つことが大切です。
仮にあなたが今歯肉炎と診断されたなら、それは歯周病にかかっていることになるのです。